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現代ボクサーエンジンの進化の過程を振り返る R1250GSエンジン解説③


長らく採用されてきたOHVボクサーから
空油冷OHCボクサーへ進化したのが1993年
それ以来、現代のボクサーエンジンは
たゆまない技術研鑽により進化を続けてきた

25年にわたる改良によって進化したボクサーエンジン

1923年に製作された「R32」から連綿と続くボクサーエンジンは、BMWのアイデンティティとも言われる。95年にもの長きにわたり改良を繰り返されてきたが、とくに進化が著しいのは1993年に発表されたR1100RSに搭載された空油冷ユニットだ。
それまでずっと採用されてきた2バルブOHVから4バルブOHCとなり、冷却方式はシリンダーヘッドをオイルで冷却する「空油冷」に変更されるという、革命的ともいえる刷新を受けた。カムシャフトを新たに備えたもののごく短いプッシュロッドも備えていたため、OHCではなくハイカム(HC)と称されることもある。
これにより最高出力は70㎰から90㎰へと大きくパワーアップ。エンジン以外でもテレレバーが初採用されるなど、空油冷エンジンを搭載したR1100RSは、BMW新時代の幕開けを担った。R1100Sに搭載された後期型エンジンは、同排気量ながら98㎰まで出力が高められている。クルーザーであるR1200Cに搭載された同系エンジンは、排気量を1170㏄に拡大しつつも61㎰に抑え、3000回転で最大トルクを発生する低回転型であった。

2001年にはボアアップによって排気量を66㏄拡大した1150エンジンが登場。扱いやすさと環境性能を向上させた。2年後にはさらに燃焼効率を高めるべくツインプラグ化されている。
そしてこのときから、RシリーズのニューモデルはGSが先陣となり、その人気と地位を不動のものにしていく。
1150までは俊敏さよりも太いトルクを優先させたエンジン特性だったが、2003年に登場した1200エンジンは、ストロークアップによって排気量を1170㏄に拡大。構成部品のほとんどを新設計とし、3㎏もの軽量化とバランサーの採用によって俊敏な加速性能と静粛性を備えた。

2009年にはカムシャフトを2本とするDOHCエンジンとなり、全域にわたってトルク特性を強化。DOHCボクサーはR1200GSに先駆けて開発されたHP2 SPORTに搭載されたのが初だが、GSに搭載されたエンジンとは別設計となっている。
そして2013年にはシリンダーヘッド周辺を水冷とする空水冷方式にするとともに、トランスミッションの一体化、クラッチとジェネレーター(発電機)の移設など、まったくの新設計エンジンとして生まれ変わり、小型化も実現。

このように着実な新技術をひとつずつ投入することで、ボクサーエンジンは着実に進化してきた。1250エンジンは25年におよぶ改良の集大成なのだ。

OHVからOHCへ大幅な進化を遂げた現代ボクサーの原型エンジン

70年以上、基本構造に大きな変更なく生産されてきたボクサーエンジンが、全面新設計によって生まれ変わった現代の第1世代ボクサー。OHVからOHCとなってカムシャフトを装備(ハイカム=HCとも呼ばれる)。冷却方式に空油冷を採用した。モデルにより最高出力が異なり、R1100SではGSより18psも高い98psを発生。R1200Cでは排気量を拡大して低回転型にするなど、派生エンジンも多く生産された

R1100GS(1993-1999)

  • 形式:空油冷OHC
  • 排気量:1084㏄
  • ボア×ストローク:99.0×70.5(㎜)
  • 最高出力:80ps(59kW)/6750rpm
  • 最大トルク:97Nm/5250rpm

ボアアップによって排気量を46㏄増やし全域にわたってトルクを向上

1100ボクサーのネガを解消しつつ、ボアアップすることでパワーとトルクを増強。扱いやすさと環境性能向上を重視して開発されたのが1150ボクサーだ。内容としてはマイナーアップデートといったところだが、BMWボクサーらしい重厚なトルク特性が妙味で、低~中回転域での扱いやすさと高回転域でのパワフルさのバランスに長けているのが特徴だ。このエンジンからトランスミッションが5速から6速になった

R1150GS(1999-2003)

  • 形式:空油冷OHC
  • 排気量:1130㏄
  • ボア×ストローク:101.0×70.5(㎜)
  • 最高出力:85ps(62.5kW)/6750rpm
  • 最大トルク:98Nm/5250rpm

100ps時代に突入した1200ボクサー

全面新設計によって生まれ変わった第2世代ボクサー。ケースの強度を高めつつ薄肉化したことでエンジン単体で3㎏の軽量化を実現したほか、バランサーシャフトの採用で振動を大幅に軽減した。ノックコントロールの採用、ストロークアップによって1170㏄となったエンジンの最高出力は100psに達成した新世代ボクサーだ

R1200GS(2003-2009)

  • 形式:空油冷OHC
  • 排気量:1169㏄
  • ボア×ストローク:101.0×73.0(㎜)
  • 最高出力:100ps(74.5kW)/7000rpm
  • 最大トルク:115Nm/5500rpm

DOHC化によって扱いやすさを向上

ボクサーエンジンがカムシャフトを装備してから20年目にしてDOHC化され、パワーとトルクを高めつつ環境性能を向上。低~中回転域の常用域での扱いやすさ、高回転域でのパワフルさを高めた第2世代ボクサーのマイナーアップデートだ。ボクサーエンジンは、確立された技術をひとつずつ投入することで着実な進化を遂げてきた

R1200GS(2009-2012)

  • 形式:空油冷DOHC
  • 排気量:1169㏄
  • ボア×ストローク:101.0×73.0(㎜)
  • 最高出力:110ps(81kW)/7750rpm
  • 最大トルク:120Nm/6000rpm

シリンダーヘッドを水冷化することでパワー、トルクともに大幅アップ

シリンダーヘッド周辺が水冷化されたほか、トランスミッションの一体化、ジェネレーターやクラッチの移設などによってコンパクト化も実現した第3世代ボクサー。また、クラッチは乾式から湿式となってスリッパー機能を搭載するなど、水平対向2気筒という形式を継承しつつ全面刷新された。初期エンジンは軽量なクランクが採用されていたが、アップデートにより増量。俊敏な加速性能はややマイルドな特性に変化した

R1200GS(2012-2018)

  • 形式:空水冷OHC
  • 排気量:1169㏄
  • ボア×ストローク:101.0×73.0(㎜)
  • 最高出力:125ps(92kW)/7750rpm
  • 最大トルク:125Nm/6500rpm

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