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高校生にいま必要なのは、バイク禁止ではなく交通社会デビューのサポートです!

ご存知のように、1970年代後半に始まった高校生はバイクの免許を取らない、バイクに乗らない、バイクを買わないという「三ない運動」は、2017年に開催されたこの運動の母体となってきた全国高等学校PTA連合会の静岡大会で全国展開をやめ、各都道府県のPTA連合会が独自の判断で展開すると決議されました。この背景には、強制的にバイクを禁止するのではなく、高校生にしっかりした交通教育をすることが必要ではないかという声が大きくなってきたことがあります。

事実、2014年には群馬県が「群馬県交通安全条例」を制定し、「高校は生徒の運転免許取得(二輪・四輪とも)を妨げない」という従来から180度転換した方針が打ち出され、交通安全教育を拡充するという動きになっています。

また、静岡大会での決定を受け、「三ない運動」の急先鋒だった埼玉県も「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する指導要項」を制定し、今年の4月1日から施行、高校生のバイクは禁止から教育へという流れに大きく舵を切り始めました。

日本自動車工業会(自工会)と日本二輪車普及安全協会では、こんなパンフレットを制作して、高校生への交通安全教育の促進を訴えています

禁止から教育に切り替えた群馬県の高校生への安全運転教育。隠れて乗るのではなく、ルールと技術を身につけて乗ることが安全への近道なのです

「三ない運動」は廃止の方向ですが、校則でバイクを禁じているのが現実です

しかし、70年代から約50年間続いた「三ない運動」の影響はとてつもなく大きく、日本自動車工業会の調べでは全国の高校の約半数が生徒の原付免許取得を禁止しているとのこと。私事ですが、小さいころからバイクの後ろに乗せたり、親子バイク教室などに参加してバイクに親しんできたボクの娘も、入学した高校が「バイク禁止」だったため、急激にバイクに対する関心が薄くなり、結局、バイクの免許は取得しませんでした。

多くの高校生とその親にとって、「校則」は守るべきもので、そこで禁止になっていることをあえてするのは困難なことです。いまでも約半数の高校がバイクやクルマの免許取得を禁止しているわけですから、「三ない運動」の状態がいまや日本のデフォルトになってしまっているのです。

1982年に328万5000台だったバイクの国内販売台数ですが、昨年は約37万台と約9分の1弱まで減少しています。40年弱の間に需要がここまで減っている業種は、ほかにあるのでしょうか? ボクはすぐには思い当たりません。

仕事がら、ヨーロッパのバイクメーカーの方と話をすることが多いのですが、彼らはなぜ世界の4大メーカーがある日本で、こんなに需要が落ち込んでいるのか不思議に思って理由を聞いてきます。ボクはいつも、70年代から「三ない運動」というものが施行されて、感性豊かで、あらゆるものに興味を抱くはずの高校生からバイクを一切遮断した結果なんだと説明します。すると質問した彼らの口から出る言葉は決まって「クレージー!」です。

当たり前のように家庭にバイクがあって、成長すると当たり前のようにバイクに接し始めるヨーロッパの人々にとって、バイクを制度で禁止するなんてまったく理解できないことのようです。

フランスのパリでは、もちろんバイクは日常にある普通のモノ。便利で合理的な移動の手段、生活を楽しむためのものと定着しています

ヨーロッパだけではなく、アジアの多くの国々でもバイクは必要不可欠なもの。台湾・台北市の朝の通勤風景。公共交通機関が発達していなかったこともあって、スクーターが市民の足。それが高じて、近年はモーターサイクルの人気も急激に高まっています

いまこそ、真剣に高校生に交通安全教育をして、交通社会デビューをさせないと日本の国力までダウンしてしまいます!

我々メディアやメーカーを含め、日本のバイク業界はこの約50年で大きなツケをかかえてしまったわけですが、これは単にバイクという商品だけにかかわらず、クルマも含めた自動車社会の大きな問題にまでなってきていると思っています。

先ほど書いたように、感性豊かでいろいろなものを吸収する高校生のときに、バイクを含めクルマ社会からある意味、遮断されてしまった人たちは、バイクにもクルマにも興味を抱くことなく成長していきます。その結果がいまの日本で、バイクの販売台数が大きく落ち込んでいるだけではなく、クルマの販売台数、免許の取得者の減少を招いてしまったのです。

ボクの小さいころ、交差点を模したラインが引かれた校庭で、自転車に乗って信号の見方などといった交通ルールを学んだ記憶があります。そう、ボクの交通社会デビューでした。そして、そうやって交通ルールを学んだボクは、将来、クルマやバイクに乗る自分を想像したものです。いまもそういうことをやっているのかどうか詳しくは知りませんが、娘が通っていた小、中、高校ではそういう身をもって交通ルールを体験するような教育を行っていたような記憶はありません。

無理して交通教育をしなくても問題は起きないだろうと思う方もいらっしゃるでしょうが、前記の群馬県が「三ない運動」を廃止した背景には、学校に隠れてバイクの免許を取った、あるいは無免許でバイクに乗った高校生の事故が多発したということがありました。禁止することで、適切な交通安全教育を受ける機会まで奪っていたわけで、それを是正するためにも廃止を打ち出したのです。

バイクやクルマといういわゆる自動車産業は日本が誇る基幹産業で、そこに携わる人の数は極めて多く、自工会の調べではその数は539万人で我が国の就業人口の約8.3%(2018年調査)。ボクのようなメディアやたとえばレーシングライダーやドライバーという職業はそこには含まれませんから、そこまで入れるとその比率は確実にアップするでしょう。

多くの人が交通社会にきちんとデビューしないまま成長し、バイクやクルマの運転をすることなく年老いていくとすると、もっともっとバイク、クルマの需要は減少して、その結果、日本の国力は明らかに低下するでしょう。そうでなくても、シェアやレンタルといった所有から使用へと需要自体の形も大きな変換点を迎えていますから、バイクとクルマの世界の将来はまさに五里霧中といった状況です。

この閉塞感を打ち破るひとつの、そして大きく有効な手段が高校生に対する交通安全教育で、これを行うことで高校生に適切な知識をもって交通社会にデビューしてもらうことが重要だと考えています。

もちろん、口で言うほど簡単ではなく、というよりも時間もお金もかかる大変なことなのは重々承知していますが、いまやらないと本当に誰もバイク、クルマに興味を抱かず、自分で乗るものじゃなく、(自動運転のモノに)乗せてもらうものになってしまうのではと不安にかられます。

いつも言っていることですが、世の中にはバイクに乗る人と乗らない人の2種類がいて、ボクはバイクに乗る人のほうが絶対に楽しく豊かな人生を送れると確信しています。それほど魅力的なバイクに、もっとたくさんの人に乗ってほしい! そのためにも、バイクを遮断するのではなく、日常にふつうに存在するものにしていくことに業界、いや国を挙げて注力する必要性を切実に感じています。

資料:総務省「労働力調査(平成29年平均)」、経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査」「平成26年延長産業連関表」等

Nom エイ出版社バイク誌プロデューサー/ジャンケン魔人

BikeJIN、RIDERS CLUB、DUCATI Magazine、BMW BOXER Journal(現BMW Motorrad Journal)などエイ出版社発行のバイク誌の編集長を歴任。現在は、趣味誌を中心にエイ出版社発行の媒体を統括